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そいつが学院指定のインナーの上に着ていたのはダンボールに布を貼り付けただけの鎧のようなもの。
貧相な肩当てが風に揺れている。
必死の形相の顔と対照的にあまりにも間が抜けていて、まるでコントだ。
灰色の屋上で見る乾いた茶色のダンボールほど情けなく物悲しいものはないと僕はこのとき痛感した。
学芸会の衣装だってもっとマシだろう。
それが僕とヒーローオタクの長太郎との出会いだったわけだ。
長太郎は、よせばいいのにダンボールの衣装のままでフェンスをよじ登ってこっちへ来ようとした。
それを僕は必死で止めた。
長太郎が動くたびにダンボールがベリベリと音を立てていたし、フェンスもグラグラ揺れていた。
バランスを崩して転落でもされたらたまったもんじゃない。
こっちに来るなという僕の叫びを、長太郎は「飛び降りを邪魔するな」の意味で捉えたんだろう。僕が何度止めても聞く耳を持たなかった。
隙を見て、這々の体(ほうほうのてい)になりながらようやく無事にフェンスの向こう側からこっち側へ戻ってきた僕に、長太郎は、いじめにでもあったのか、何か悩みでもあるのか、と問いかけてきた。
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