プロローグ

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女性はゆっくりと身体を起こし、眼鏡をかけなおし、少女を促し階段をさらに下りていった。 たどり着いた場所は、地下水路だった。 流れは早いが、下水道の様に臭う事もなく、ねずみや害虫に出くわす心配はなさそうだった。 2人は悩んだ末、流れの上流へと向かった。上流の先に人がいる建物にたどり着けるような気がしたからだ。 「ここから無事に帰れたら、一緒にお風呂…入ろうね」 「こういう時はご飯食べようね、とか、美味しいジュース飲もうね、じゃないの?」 少女と女性は、このまま逃げ切れるかも…と少し安堵していた。 追っ手の足音が水流の音で聞こえにくくなっている事に2人は気づいていなかったのだ。 他愛もない話をしながら進んでいた2人の顔に焦りが浮かんだのはそれから少ししてからだった。 前方から複数の声が聞こえたのだ。 「声がしたのはこっちからか?」 「間違いない!ここまで一本道だっただろう」 「この先にいるな!」 「見つけ次第直ちに始末しろ!」 2人の行く手を阻むかのように、迫りくる追っ手。逃げ場は最早水路の中しかなかったが、2人して飛び込めばすぐに気づかれるであろう事を、女性は本能的に悟っていた。水中に逃げれば助かるかもしれないが、銃で狙われては身を隠せない…。 自分の手を強く握り締め震える少女。血を分けた、今やたった1人の肉親。 女性は少女を強く抱きしめ、耳元で囁いた。 「大丈夫。お姉ちゃんが守ってあげるから…」 「えっ…?」 少女が女性の顔を見上げた瞬間、女性は少女の身体を水路へと突き飛ばした。 バッシャーン!! 派手な水音と共に少女は頭からびしょ濡れになりながら顔を出した。 「お姉ちゃん!!何すんのよ!!」 流れが速い水の中、必死に流されまいと手足を動かしながら女性を睨み付ける。 「この先から聞こえたぞ!!」 少女が水路に落ちた音が男達の耳にも届いていたらしく、足音が近付いてくる。 「お姉ちゃん!!お姉ちゃんも早く!!一緒に逃げようよ!!」 少女は必死に女性へと手を伸ばす。その間にも足音は近付き、また少女は下流へと流され始めていた。
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