黒、白、赤

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いまぼくは、とある医科大学に 来ていた。 通う高校のエスカレーター先の 大学である。 ぼくは小さい頃に病気をして、 ここに世話になったことがある。 もう10年以上も前なので、道は 覚えていない。 覚えているとすれば。 中庭に桜があったことくらいか。 ぼくの足音だけが、電気が点いていない、暗い廊下に響く。 そこを曲がると、階段があった。 ほのかに、夏の残り香を孕んだ 外の空気が流れてきている。 「……ん?」 ふと、10年前と目の前が重なる。 ぼくは階段を降り始めた。 「9月の桜って、どんなふうに なってんだろ」
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