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中庭に出てしまった。
その有り様は、あまりにも記憶とかけ離れていた。
花壇に花がなく、焦げた茶色の
土が無造作に掘り返されていた。
幼稚園児がいたずらしたみたいな乱雑さだった。
四方を建物で囲まれて、大学の
中央に位置している中庭。
その中心にあった、桜の木。
小さい頃に一度だけ見て、今日になって、また見たいと思っていた……けど、それは叶わなかった。
なくなっていた。
切り株になっている。
吹いていく風もどこか白々しい。
木があの桜しかなかったせいか、鳥たちも空を飛んでいない。
そんな場所に、たどりついて。
見てはいけないものを見た。
そんな気がした。
だって、
あんなに悲しそうに、切なそうに泣いている女の子が、そこにいたから。
切り株に座って、体を小さくして……もう降らない桜を待ちわびているようだった。
風が吹いている。
きっと、この少女にはなんにも
運んでくれてはいない。
黒い髪が揺れていた。
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