黒、白、赤

4/15
前へ
/15ページ
次へ
中庭に出てしまった。 その有り様は、あまりにも記憶とかけ離れていた。 花壇に花がなく、焦げた茶色の 土が無造作に掘り返されていた。 幼稚園児がいたずらしたみたいな乱雑さだった。 四方を建物で囲まれて、大学の 中央に位置している中庭。 その中心にあった、桜の木。 小さい頃に一度だけ見て、今日になって、また見たいと思っていた……けど、それは叶わなかった。 なくなっていた。 切り株になっている。 吹いていく風もどこか白々しい。 木があの桜しかなかったせいか、鳥たちも空を飛んでいない。 そんな場所に、たどりついて。 見てはいけないものを見た。 そんな気がした。 だって、 あんなに悲しそうに、切なそうに泣いている女の子が、そこにいたから。 切り株に座って、体を小さくして……もう降らない桜を待ちわびているようだった。 風が吹いている。 きっと、この少女にはなんにも 運んでくれてはいない。 黒い髪が揺れていた。 .
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加