黒、白、赤

7/15
前へ
/15ページ
次へ
振り返ると、涙がたまった大粒の瞳でぼくを見る女の子がいた。 立ち上がって、ワンピースの裾を揺らして、不安げにこぶしを胸に押し当てて、ぼくを見ている。 目が合う。 「……え? ぼく?」 思わず訊いてしまう。 「え、あ、うう……?」 女の子はぼくの裏返りそうだった声を聞いて、一歩後ずさる。 なぜか怖がられてるみたいだ。 けど、切り株から立ち上がった ばかりの場所でそうしてしまうともちろん、足がぶつかる。 「あ、きゃ!」 距離もあって、ぼくは女の子に 手を貸すことができなかった。 それでも、ちいさな悲鳴が届いてすぐに駆け出した。 間にあうとは思わなかったが……止まってはいられない。 女の子がバランスを崩して、もう後ろに倒れかかっている。 (……間にあえっ!) 手を伸ばした。 届かない。 けど。 ぺたん、と女の子は、ちょうど 切り株に座りこんだ。 桜のほうが、女の子を吸いよせたみたいな光景だった。 なんだか微笑ましい。 ぼくは息をつき、足を緩める。 女の子は、まだ目をつむったまま固まっていた。 そんな彼女を見て、なんだか急に親近感がわく。 ぼくは歩み寄っていた。 「……大丈夫?」 声をかけてみた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加