名古屋の母

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 手土産は何がいいか悩んだ末、名古屋駅のデパートでドーナツを買った。二歳の男の子と新生児がいる、さと子さん。デパートには来られまい。喜んでくれるだろう。俺ってすごい。    名古屋駅からローカル線で10分。徒歩10分。調理師学校の元同級生二人とは、さと子さんの家で合流だ。調理師学校とは言っても、社会人クラスだったので、様々な年代の人がいた。彼女たちは今年32歳だっけ?卒業以来三年ぶりの再会だ。変わっているだろうか?  ところで二人は車で行くらしい。俺を駅で拾ってくれてもいいのに。真夏の太陽の下を10分歩けば、正座も難しい位にズボンがべったりだ。  畑が左右に広がる細い道を歩きながら、頭をよぎるのは『なんで俺を誘ってくれたんだろう?』と、『暑い』だな。学校に通っていた頃は一緒に食べ歩きもしたけれど、卒業後は特に何もなく、三年が過ぎたのに、何か意味があるんだろうか?って考えてしまう…過度の期待は良くないぞ春夫。 そう、俺の名は町田春夫。『待ちだ春を』って具合でよく晩婚になるだろうと言われたが、ご期待に応えて、独身街道まっしぐらである。汗が流れる額も、年々広くなっているような。 最近はコンパにも誘われず、職場の居酒屋では同僚は男ばかり。…待っていられないぞ、春夫。なんといってももう39歳。来年は40だ。この壁は男であっても厚い。 ケータイの地図ナビが到着を示した。この辺で。一軒家で。レンガ調の壁で。愛野…。 あった。確かにレンガではなくレンガ調。今時は色々な外壁材があるんだな。新築で二階建て か…。俺には買えないな。入社して三年経ってない俺はローンが組めない。貯金もないし。こんな俺と誰が結婚してくれるんだ?
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