愛を知る

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 「いや、さと子さん、さすがにみんな付き合ったこと位あるでしょ、大人だし。」  ちょっとむっとして俺は言い返した。愛を知らない人間だと言われるのは心外だ。  「町田君や夢子やのぞみが知っているかどうかは、私は知らないよ。難しいのは、これが、体験、経験しなきゃいけないことってことね。本を読んでもだめなの。町田君は、今まで付き合った女性をどんな感じで愛してた?」  な…なんて質問だ…赤面して答えようがない。  「私を同級生じゃなく、カウンセラーだと思ってさ。」  「…別に普通だよ。休みには映画に行ったり、料理を作ってくれたり、可愛いと思っていたよ。」  「なんで別れたの?」夢子さんがまた淡々と聞く。しまった、俺が的にされてるじゃないか。  「う…なんとなく自然消滅が多いような…。」  「少女マンガのような、燃えるような恋をどう思う?」俺が答えたのと同時位にさと子さんが切り返した。  「あれはあり得ない世界でしょ。」  「そんなことないのよ、それが。本当は、現実は漫画やドラマより、もっともっと情熱的で、深くて、愛に満ち満ちている。例えば、その人がそこにいるだけで、嬉しいと思ったり、その人が泣いているだけで、胸がしめつけられるように苦しかったり、その人が笑っているだけで、気持ちが休まる。辛いことがあれば何とかして助けてあげたい、傷つける者から守ってあげたい。ずっとずっと側にいたい。」  三人が黙った。さと子さんが誰かを思い出しているように見えた。愛おしそうで遠い目だ。  「外見とか性格とか仕草とかではなく、その人の存在そのものが大切に想える。そしてそんな感情を抱いた相手に同じ気持ちを持たれたことは、自分の存在を肯定し、愛することへの自信につながる。もしその異性と結ばれなくても…次に出会った人も、そうやって存在を愛する対象として見ることができる。」  
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