女害

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 無事にとは言えない有様で桜並木を突っ切った私は、人目も憚(はばか)らず、身体に引っ付く毛虫を……ああ、青虫もいる! 必死に振り払う。   頭を振って、私のご自慢である香しい臭いのする長い黒髪に引っ付く虫けらを落として、セーラーへと降り懸かった害虫は手で撥ね除け……とにかく、常時の自分では有り得ないような全身全霊さで追い払ってみせる。  「ふぅ」  私は息を吐き出す。身体に虫はない。良かった……いや、良くなかった。だって、あらん限りに振り乱した奇っ怪な女に成り下がってしまったんですもの!   何とか出発前の様相に戻ろうと努めてみるも、動揺し震えている身体ではそれも敵わない。  何でこんな事に!  怒りを孕んだ瞳を、今しがた走り過ぎた桜並木へと向ける。その下には、降り落ちて来た虫が沢山あって、それは、まるで、あの……何だか、私へと向かって来ているようで……  本日二度目となり叫声を上げて、私は逃げ出す。もう絶対にあの桜並木は通らないと心に誓いながら。  @  私の学び場である高校にたどり着けた。  改装されたばかりのシンプルながらも美しい外装――塗装を晒す校舎の前で、私は息を切らしていた。
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