女害

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 それだけ私を必要としてくれるのだ。有り難い話である。  朝の事件など疾うの昔に忘れて、この二時限目に集中力を注ぎ込む。……成る程、極限とはこうやって解けば良いのか。  ――そんな授業風景を壊すものが、何処からともなく教師へと侵入して来た。  ぶーん  それは不快感を煽る羽音を立てる生物。記憶の外に追いやった筈なのにフラッシュバックする朝の出来事。  「おいおい、何処から入って来たんだよー」  クラスのお調子者の不機嫌そうな言葉を口火に、「お前を好いてんだよ」とか「私、虫きらーい」とか、そんなガヤガヤとした雰囲気が生まれた。  新米教師は騒ぎを止めようとするも、詮方無しと言った感じで慌てふためくばかり。こういった使えない人間を見てると、自然と溜息が漏れる。  除外されれば良いのに。  羽の音が耳障りで困る。しかも音量は段々と上がって行くようで――そして、やがて止む。  皆の戯言も止まった。辺り一面、水を打ったかのような静けさだ。平生の私が大好きな静寂。でも、今は嫌いだ。  クラスメイトと新米教師の視線は一点に集約していた。私の肩の上だ。つまり、私の肩の上に乗った蠅(はえ)に、だ。
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