女害

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 あ、恥をかいた。  一種のパニックとも言える状態に陥ってった私は、意味も無く唐突に椅子から立ち上がってしまったのだ。  そして、ビックリしたのだろう。  人差し指の第一間接程の大きさをした蠅が肩の上を離れ、私の高い鼻梁の上に止まったのだ。  私は「ヒッ」息を呑んで倒れる。  爆笑が起こる。私の意思など度外視した、その場を楽しむような馬鹿なクラスメイトのけたたましい笑い声が、教室内に蔓延(はびこ)る。  何でこんな事に……!  赤面の私は、サッと立ち上がりながら一心不乱に走って、脇目も振らずに教室から抜け出す。何も考えて無かった。鼻に付いたままの蠅が気にならないぐらい、頭は真っ白だった。  とにかく頭脳明晰な私らしくない現状が気に喰わなくて仕方が無かったのだ。  靴を履き変えないまま、玄関を飛び出した。考えの至らない頭――本能が、とにかく家に帰ろうと肉体の各部に命令を下している。  私はそれを素直に従おうと思っていたし、取り敢えずクラスに戻ると言った考えは無かった。  陽気な日が射す十時前後の事。  「ああ、ああ」と私は呻いていた。眼前の光景があまりにも酷かったのだ。
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