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最後のあまりの剣幕に二人は文字通り目を丸くした。
こんなふうに怒るとは思っていなかったのだ。
「あ、す、すまんな。怒鳴ってしもうて……」
頭を掻いて謝る柊になおたちは首を振る。びっくりしたけど、怖かったとは思っていない。
しばらくすると、タローさんが息を切らしながらここへ来た。手には、バニラのソフトクリームを二つ持っていた。
「はい、これと、これ。もう、チョコとストロベリーがないから、これで勘弁してね?」
そう言いながら、星が出そうなウィンクをするタロー。美緒の目が一瞬ハートになったのは言うまでもないだろう。
「あ、ありがとうございます……、あ、あのお代は……」
そう言いながら、バッグから財布を取り出すと、タローは気障な仕草でそれを止めた。
「お代は、いいよ。変に心配かけたみたいだし、それに――」
「六百円」
タローの途中の言葉にかぶせるように柊が言った。なおは、動きを止めた。
「それ、一個三百円やから、二個で六百円や」
タローが綺麗に調った眉をピクリと上げる。柊は、普通の表情で言葉を続けた。
「どこのラブコメじゃあるまいし、それを無料で提供することはできへんよ。オレらにやって生活かかってるんや。次の公演やって、金は必要やし、それに、お嬢ちゃんたちだけにそないなことしたら、不公平やろう?やから、金は払うて?」
言われてみれば正論だった。確かに、タダで食べれるなんて今のドラマでもありえない。代償はちゃんとみんな払ってる。タローは、そんな杓子定規なことを……と言っていた。
でも、なおは柊の言う事が当たり前なのだと思い、財布から千円札を取り出す。それを柊に渡すと、彼はニカッと笑って、毎度あり!と言った。
なおは、その笑顔らしい笑顔に、心がグラッと揺らめいた。
卓哉と別れたばかりなのに……。
自分の心の移ろいやすさに悲しくなりそうだった……。
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