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暗くなった帰り道。
柊たちと連絡先を交換した二人は自分のアパートに向かっていた。偶然か否か、二人のアパートは同じなのだ。
「にしても、タローさんって格好良かったよねー。彼女とかいるのかなぁ?」
街灯がポツリ、ポツリ、と灯る不気味な帰り道ではしゃいだような声を出す美緒。なおは、そうだねー、と相槌を打ちながら、ポケットに入っているスマホが気になって仕方なかった。サイレントにしているせいか、メールが来ていても気付かない可能性があるのだ。
「なお!な・お!」
スマホばかり気になっていたからか、美緒の声に気付かなかった。なおは、な、なに?と上擦った声を発した。
「なに、考えてるのよ?」
「あのさー、男と別れたばかりなのに、もう違う男に目がいくってどう思う?」
アパートまで、あともう少しのところで美緒が足を止めた。街灯から離れているせいか、表情が見えない。
「……別に良いんじゃない?別れてからすぐに違う男と付き合うなっていう法律はないし」
なおは口を尖らせ、言い返した。
「法律、じゃなくて、道徳とかの問題だよ!美緒はどう思う?」
その問いに、美緒は、あっさりとした口調で答えた。
「道徳って人の気持ちを縛るよね、倫理とかモラルとか。まぁ、ある程度の規制は必要かもしれないけどさ、でも、結局縛るよね~」
言葉を一度止めて、美緒はなおに訪ねた。
「そんな縛りに、屈する?先人たちが作ったありがたいお説教なんだろうけど、今の世界に当てはめたら、みんな疲れちゃうよ」
その言葉になおの心の枷が音を立てて壊れた。
それから、次に目から塩っぱいものが頬を伝う。涙だった。
「あの柊さんなら、なおのこと大事にしてくれるんじゃない?あの人の瞳、すごく澄んでた。川魚がいっぱいいる川みたいにすごく綺麗で澄んでいたから、きっと無垢で純粋な人なんだ。それに、常識があるし」
美緒の最後の言葉になおは、何故、彼に惚れたのか解った。
目だ。
濁っていなかった。透き通るような目に、なおは好感を持ち、彼の真っすぐで飾らない言葉に、惚れたのだ。
その単純で、嘘のつけない理由になおは、嬉しくて仕方なかった。
笑ったり、泣いたりと忙しいなおに美緒は素直に羨ましかった。
子供みたいな真っすぐななお。傷つきやすくて、ナイーブで。
壊されやすい。だからこそ、誰かが守ってあげなくちゃいけないのだ。
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