序章

18/25

41人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
暗くなった帰り道。 柊たちと連絡先を交換した二人は自分のアパートに向かっていた。偶然か否か、二人のアパートは同じなのだ。 「にしても、タローさんって格好良かったよねー。彼女とかいるのかなぁ?」 街灯がポツリ、ポツリ、と灯る不気味な帰り道ではしゃいだような声を出す美緒。なおは、そうだねー、と相槌を打ちながら、ポケットに入っているスマホが気になって仕方なかった。サイレントにしているせいか、メールが来ていても気付かない可能性があるのだ。 「なお!な・お!」 スマホばかり気になっていたからか、美緒の声に気付かなかった。なおは、な、なに?と上擦った声を発した。 「なに、考えてるのよ?」 「あのさー、男と別れたばかりなのに、もう違う男に目がいくってどう思う?」 アパートまで、あともう少しのところで美緒が足を止めた。街灯から離れているせいか、表情が見えない。 「……別に良いんじゃない?別れてからすぐに違う男と付き合うなっていう法律はないし」 なおは口を尖らせ、言い返した。 「法律、じゃなくて、道徳とかの問題だよ!美緒はどう思う?」 その問いに、美緒は、あっさりとした口調で答えた。 「道徳って人の気持ちを縛るよね、倫理とかモラルとか。まぁ、ある程度の規制は必要かもしれないけどさ、でも、結局縛るよね~」 言葉を一度止めて、美緒はなおに訪ねた。 「そんな縛りに、屈する?先人たちが作ったありがたいお説教なんだろうけど、今の世界に当てはめたら、みんな疲れちゃうよ」 その言葉になおの心の枷が音を立てて壊れた。 それから、次に目から塩っぱいものが頬を伝う。涙だった。 「あの柊さんなら、なおのこと大事にしてくれるんじゃない?あの人の瞳、すごく澄んでた。川魚がいっぱいいる川みたいにすごく綺麗で澄んでいたから、きっと無垢で純粋な人なんだ。それに、常識があるし」 美緒の最後の言葉になおは、何故、彼に惚れたのか解った。 目だ。 濁っていなかった。透き通るような目に、なおは好感を持ち、彼の真っすぐで飾らない言葉に、惚れたのだ。 その単純で、嘘のつけない理由になおは、嬉しくて仕方なかった。 笑ったり、泣いたりと忙しいなおに美緒は素直に羨ましかった。 子供みたいな真っすぐななお。傷つきやすくて、ナイーブで。 壊されやすい。だからこそ、誰かが守ってあげなくちゃいけないのだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加