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「ごめん、オレと別れてくれないか」
昼休みの桜ヶ丘大学の図書館、松井なおは夢のような、いや、夢であってほしいと願う出来事を体験した。
外は春らしい陽気でグラウンドにはちらほらと元気に駆け回る生徒、でも、それと反対に静謐な図書館、優等生たちや読書好きの学生がちらほらといる。
そんな中で、読書もしない二人が真剣な表情で話をしていた。 注目を集めるの当然であろう。しかも、みんなが嫌いではないどろどろの修羅場らしきもの。
聞き耳を立てる人は少なくないはずだ。
「え……?い、いやだな、卓君、まだ、エイプリルフールはまだ先だよ……?」
図書館に合うように小声でそう言い、笑う。 別れてほしい、なんていわれるとは微塵も思っていなかったのだ。卓君……もとい、陰山卓哉は黒縁の眼鏡の鼻当てを軽く押し上げ、小さく首を振る。
その仕草でなおは、冗談ではないことを知った。その瞬間、二人の周りの空気だけ、南極よりも冷たくなった気がした。
なおは引きつったような笑顔をを作りながら訊ねた。
「な、なんで? わ、私、悪いことした……?で……でも、全然覚えが……」
なおの頭の中に色々なことが駆け巡る。確かに彼女は、明るく元気で、かなりの人気者だ。
しかも、年下にもかなり、もてて、彼女が所属している漫画研究会というサークルでは姉御的な存在だ。
そりゃ、明るすぎて壊れることもあるが、でも、それも彼女のいいところ、なのだ。
「いや、オレが悪いんだ。実は、他に好きなやつが出来て……」
その言葉に、彼女の頭は真っ白になる。 そんな傾向は……無きにしも非(あら)ずだった。最近、会っても上の空だし、メールの数や電話も減っていた。逢えば普通に会話をしていたが、キスの数も身体を重ねる数も、もうほとんどなかった。
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