序章

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言い訳を繰り返すこの人になおは、もう嫌気がさしていた。 自分の容姿が気に入らないならそう言えば良い。 なおだって変に色気を振りまいているわけではない。 むしろ、その逆だ。 自分は男女関係の友情はありえると想っている。 なぜならば、同じ人間だからだ。 肉体関係は別にして、普通に遊んだり、話したり、相談したり、笑いあったり、して、それで、繋がりあえる。彼氏彼女なんて関係ない、それなのに、今はおかしいとなおは心の中で思っていた。 すぐに、すきとか嫌いとか、そんな話になる。 ああ、何でこんなこと思ってるんだろう。 ―――もう、良い!! そう叫んで、この図書館から出て行ければいいのに、なぜか身体が動かない。 「なお、本当にごめん、でも、オレ、お前の明るい性格とか誰にでも笑顔で接せれるそういうところはだいすきだっ……」 その取って付けたような言葉を聴いたときに、なおは何も言わず、椅子を鳴らして立ち上がり、彼の頬を張った。 パシン、という小気味いい音を発する。その音を聞いてもなおの心は空かなかった。 むしろ、また、もやもやとした気持ちが発生する。彼は、叩かれたことに少し驚いたような顔をしながらなおを見ている。 周りは、見て見ぬ振りを繰り返す。当然か、彼らには関係がないのだから。 「……もう、いい!」 図書館には似合わぬ大声。 ああ、恥ずかしい。でも、自分の言葉が止まらない。 大好きだと言った彼の表情や、一緒に遊ぼうといったあの顔が頭の中でぐしゃぐしゃに崩れていく。 ごめん、そう言われたとき、ああ、この人はもう私のこと、好きじゃないんだな、と改めて感じた。 なおは、小走りで図書館を出る。早歩き、誰かに何度もぶつかりそうになる。でも、謝る余裕もなく、ただ、ひたすら歩き続ける。  ふと、中庭の大きな桜の木のことを思い出す。 あそこでなら、独りで泣ける。悲劇のヒロインになれる。そう思ったとき、なお中庭まで逸りそうにな自分の涙を必死で抑え込みながら、玄関を抜け、中庭まで続く舗装された道を早足で通り抜けた。 暖かい風がなおの頬を撫でる。中庭の端々に咲いている満開の桜。グラウンドにも見事なソメイヨシノが咲いているが、こっちは枝垂桜が咲いている。その桜の木の下でなおは、泣きたかった。大好きだった、彼。 でも、自分を慕っていた後輩を好きになっていた。  そう思うと、もう涸れてもいいはずの涙がまた溢れてくる。
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