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――自分が命をかけて守ろうとしていた少年の命がつきようとしている。
胸を巨大な槍の刃が貫き、まだ生きているのが不思議だった。
「はぁ、はぁ……」
少年の口からもれる息は弱々しく、いつ命と一緒に消えても不思議くらいかすかなものだった。
胸の裂け目から血はとめどなく流れ、少年の瞳から光はなかった。
「…………」
少年を抱き上げている彼女は無言だ。
紅い目で少年を見、静かな雰囲気で佇んでいる。
死が無情に横たわる広野。
血のにおいが充満し、彼女の足元に数十匹――いや、五十匹ある死骸の数々。
それは人間のものではなく――魔物のもの。
ただ一人で彼女は魔物を葬った。
ここにいた魔物はあらかた片付いたが、まだ一匹の魔物――大物が生き残っていた。
そしてここで命があるのは彼女とその魔物、そして死にかけの少年だけだ。
彼女には仲間――部下はいるが今、別の場所で別の魔物と交戦中。
もう少ししないとここに駆けつけてこないだろう。
「……かふっ……」
彼女の見ている前で少年は血を吐き出す。
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