第一章、忘却の紋章

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頭を振った大男は自分の娘の変化を見て絶句する。 彼の名前はリクト=スティグマ。 かつて最強といわれた紋章魔術師の一人で現在は不在の女王のかわりに紋章の王国の頂点にいる男である。 その彼をもってしても目の前で展開される光景に体を硬直させて佇むしかできなかった。 ここは王城がある場所である。 つい数時間前までは美しい中庭と白い城があった。 しかし今は…… 城は半壊し、庭はクレーターと化している。 そんなことをしたのは誰か―― 記憶が曖昧なリクトにも分かった。 「リクト様。目を覚ましましたか?」 最悪な事態だというのにゆるい笑みを浮かべて手を振っているのはイザナ=フレイズ。 かつてのファミリーネームはラグナス。 何人もの優秀な紋章魔術師を輩出した名門中の名門の生まれ……しかしイザナは【落ちこぼれ】と呼ばれる存在。 紋章魔術をまったく使えなかったからだ――かつては。 今ではリクトも感じている。 イザナは落ちこぼれではない。 得体の知れない強さ――それをもって戻ってきたのだ。
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