8人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は気づいた。
いつの間にかこの国から、個性というものが失われていることに。
才能、人格、性格、容姿……
どれをとっても皆同じ。
因みに25歳以上の独身者は、男女を問わず存在しない。
25歳になると、付き合っている人がいるならその人と結婚し、いないならくじ引きで相手を決める。
これだけ平等なら家の造り、調達品もまた然り。
とにかく何から何まで全てが平等なのだ。
でも僕はわかってしまった。
この国で唯一平等でない存在のことを。
この国の最高権力者で、今では独裁者となった大統領だ。
彼は容姿も人格も、そして地位も違う。
そしてこのことを多くの人に知ってもらうために、街頭でビラを撒いた。
しかし、ビラが残り数枚になったとき、黒い制服を着た男たちが近づいてきた。
彼らは僕をいきなり拘束して、有無を言わさず警察車両に乗せられた。
行先はわかっている。
強制収容所だ。
そこには反体制派の人たちが収容され、世間から一生隔離されてしまう。
まったく、僕も愚か者じゃないか。
こんな独裁者を、大統領の座に就けた僕たち有権者は実に無能者だ。
自嘲する僕を乗せた車は、ひたすら目的地へ向かっている。
--fin--
最初のコメントを投稿しよう!