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やけに明るく言いながらも、声は震えていた。
濡れた制服からぱたりぱたりと水滴が落ちる。
「言ったでしょう? ここは狭間の世界。彼方(あちら)の意思のある生き物は此方(こちら)には居ないよ。君は迷い込んでしまったんだね。」
いつの間にか池から上がっていた男を振り返る。
「うそっ!」
「どうしてそんなに否定するの? 君は帰りたくなかったんでしょう?」
少女は拳を固く握り締める。
「こっ、こんなとこに来たかったわけじゃない! 帰して! 私、帰る!」
男の白いワイシャツにしがみつくように縋る。
相手が人間ではないという事を頭から失念させているのか、信じてないのか、少女はさらに男に掴みかかる。
「ただ、毎日毎日お小言の繰返しにうんざりしてただけ! 帰りたい!」
「そうだね。帰れる内は帰った方が良い。ある日突然当たり前に帰れる場所が奪われるなんて、わりと有ることだ。僕らのようにね。」
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