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見上げた先のあまりにも寂しげな表情に少女は押し黙る。
こいしい。いとしい。どうかこたえて。
闇に浮かぶ緑の明滅の群れ。
それは昔にあった池の姿。
「あなたはホタル?」
男はふわりと笑って答えなかった。
「さあ、ここは生きた人間が居る場所じゃない。」
指差され、少女はその指の先を目で追った。
「お帰り。」
背中をトンと軽く押され、少女は一歩思わず前に出た。
振り返ると、そこにはしんっと静まりかえる、街灯に照らされた池だけがあった。
「幻?」
まるで狐に化かされたような呆気なさ。
けれど確かに制服も鞄も濡れていて。
「帰ろう。」
辺りはもう真っ暗だ。
きっと待っているのは、いつもの口煩いお小言で。
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