黄昏の幻

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コンクリートの道路二本と田んぼの畦(あぜ)道一本に囲まれた池がある。 三角池と呼ばれるそこには、今やアメリカザリガニが跋扈(ばっこ)し、日本在来の種など絶滅したかのように見えた。 池は浅い場所が広いので、夏休みともなればザリガニを捕りに子供たちが池に入って楽しむのだが、今はタ闇迫る黄昏時。道を通る人影すらない。 ただ一人、畦道に蹲(うずくま)る人物を除いては。 薄闇に浮かぶ人影は、その形から女性であることは分かるが、顔は翳り容姿は見えない。 「帰りたくないな。」 囁くような高い声は幼さを含み、それが少女であることを教える。 溜め息と共に石がぽちゃり、と池に落ちた。 「帰りたくない。」 もう一度呟き、頭が垂れ下がる。
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