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不機嫌さを隠そうともしない少女の声に男はくすくすと笑い声を発てた。
「それは良い判断だね。今は逢魔が刻。気をつけないと現(うつつ)でも鬼に食べられてしまうよ?」
「鬼って、馬っ鹿じゃないの?」
言いながら少女は縁(ふち)から脱出し、踵(きびす)を返して駆け去ろうとする。
けれど、男の手がそれを阻んだ。
「きゃあっ!!」
突然握られた手首に少女の悲鳴が上がる。
「ああ、びっくりさせてごめんね。」
顔の見えない頭が下がる。
「これ、忘れ物。」
そう言って男が差し出したのは、黒い学生鞄。
気まずい沈黙を一拍置いた。
「あ。す、すいません。」
少女は慌てた調子で頭を下げ、差し出された取手を掴み、引き寄せようとするが、男が鞄を離してくれない。
「え?」
男の口元が弧を描いているように見えた。
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