黄昏の幻

7/13
前へ
/13ページ
次へ
少し苛立ちを含ませた言葉に、少女はびくりと震えて動きを止めた。 それでも無意識のカタカタと小さな震えは止まらない。 響く地鳴り。 今は夏である筈なのに、辺りの気温は下がっていく。 奇妙な声を上げながら、何かが近づいていた。 「ほら、息止めて。」 少女は上手く吸えない息を出来るだけ吸い込み、息を止めた。 眦(まなじり)から涙が出てくる。 大地をも踏み破るような足音が、二人の上の道を通って行く。 少女は思わず男の手を両手で握り締めていた。 池にぼんやりと禍々しく青白い鬼火が映って揺らめく。 鬼の一足は大きく、あっという間に過ぎ去った。 「行っちゃったね。」 男はそっと少女の口から手を離した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加