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「な、に。あれ。」
震えの止まらない、息も絶え絶えな少女に、男は首を傾げる。
「鬼だって。人の怨念が寄り固まって出来た化け物さ。気を付けないと、あれは何でも食らう。」
「ありえない! ありえない、あんなの!」
男に向かい、訴えるように繰り返す。
日はとうに暮れて、空に残る光の残滓(ざんし)で見えるのは僅かにお互いの形だけになっていた。
その暗さに少女はぎくりとして男と距離を作る。
男の溜め息がやけに響いた。
「暗いね。」
その言葉に少女はハッとした。
池の傍には街灯が一本立っていた。
なのに今、目の前の男の姿を確認出来ないほど暗い。
「ここ、どこ?」
ふわりと緑色の光が溢れる。
何百というほどの蛍の群れが唐突に現れた。
光の線を描き、池にも幻想的な光をゆらゆらと映し出しながら、蛍は飛び交う。
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