黄昏の幻

9/13
前へ
/13ページ
次へ
もちろんアメリカザリガニの住むあの池に蛍は居ない。 「ここは狭間の世界。君らが妖怪とか妖、もののけ、幽霊なんて呼ぶ者たちの世界だよ。此方(こちら)からしたら君の方が有り得ないんだよ? 人間が自分から此方(こっち)に来ちゃうなんて。」 「え、え? じゃあ、あんたも人間じゃないとか、言うの?」 目の前の男は、美しい緑の光に照らされ、その顔を露にしていた。 優しげな表情のどこにても居そうな青年だ。 「そうだね。僕も思念が寄り集まって出来たモノ。その点では鬼と変わらない。」 少女はあどけない顔のなかに恐怖を浮かび上がらせた。 「こいしい。いとしい。どうかこたえて。」 「え?」 まるで歌うように囁かれた言葉に少女は聞き返した。 「僕を作る想い。安心して良いよ。そんなに悪い感情から生まれたモノではないから、あんなに禍々しいモノでも無いんだ。」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加