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二つの姿があった。
ウインドブレーカー着た青年と、ベンチコートに身を包み、横たわる女である。
女はぐったりとし、全く動く気配がない。
一方、青年は女の近くでひざをついている。
女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
不意に風が吹き、二人を包む。
彼女の茶色い瞳から、ついに雫がこぼれ落ちた。
青年は女に向かって手を振り上げる。
異常なほどにガタガタと震えた右手を。
そして、本当に小さく何かを呟いた。
次の瞬間――
彼の右手が容赦なく振り下ろされた。
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