紫陽花の咲く頃に

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自分たちが迎えに行かなくても季節は勝手にやってきて、勝手に去っていく。 暖かい春、暑い夏、涼しい秋に寒い冬。 季節の変わり目に「ああ、またこの季節がやってきた」なんて少し感傷的になってみることもあるのだけれど、やっぱりこの時期は他の季節の倍そんな気持ちになってしまう。 「あー……まじ鬱陶しい」 季節は梅雨。 ジトジトした湿気と、飽きるくらい降り続ける雨、降らない日もなんとなく曇り空でスッキリしない、そんな季節。 俺、塚原 結は窓の外で降り続ける雨を頬杖をつきながら眺め大きくため息をついた。 「うっとうしいって、まさか彼女のこと?ひで~。麻由ちゃん、可哀想……」 「ちげーよ!雨だよ雨!麻由の話なんて一切してなかっただろうが!」 目の前でプハーッとタバコの煙を吐き出し、見当違いな発言をしたのは友達の吉岡陽翔(よしおか はると) 俺が突っ込むと陽翔は「なんだ、雨ね……」とつまらなそうにつぶやいた。 「ここんとこずーっと雨じゃん?さすがにこんだけ雨が続くと気が滅入るわ……」 アイスカフェラテが入ったグラスの中の氷をストローでグルグルとかき混ぜる。 せっかくカフェで昼飯を食べているというのに、こんな天気じゃ気分も盛り上がらない。 テンションが低い俺を見て陽翔は、呆れたように笑いながら言った。 「しょうがないじゃん、梅雨なんだから」 梅雨、ねぇ……。
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