紫陽花の咲く頃に

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俺は季節の中で梅雨がいちばん嫌い。 毎日、雨雨雨……曇り曇り曇り……除湿機がいるほどの湿気。 鬱陶しい、本っ当鬱陶しい。 おまけに、天気で気分が左右されやすいから、雨が続くこの時期はなんとなく毎日憂鬱なわけで。 いっそ梅雨なんてなければいいのにと思ったりするのだが、ないとないで自然環境的にはきっとヤバいことになるに違いない。 農作物がどうだとか、干ばつがどうだとかさ……。 そういうわけで、悲しいことに自分には、この時期が一刻も早く過ぎて欲しいと願いながら我慢することしか出来ないのだ。 「あーあ、梅雨よ、早く終われ~」 「俺は梅雨より実習が早く終わればいいのにと思ってるよ」 「はっ……実習!」 陽翔の発言に目をカッ!と見開く。 「え、まさか、その様子……実習のこと忘れてた感じ?」 「うん、すっかりうっかり。てか、俺、あさってオリエンテーションあるんだった」 「あさってのことすら忘れてるって、どんだけ緊張感ないわけお前。逆にうらやましいわ」 俺と陽翔は教育学部に通う大学3年生。 お互い、教師になるのが一応目標。 教師になるには教員免許なるものを取得しなければいけないわけで、取得するためには大学で勉強するのはもちろん、教育実習を受けなければならないのだ。 「で、結はどこに実習決まったんだっけ?」 「高校」 俺はまた頬杖をつくとストローを噛みながらつぶやいた。
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