25人が本棚に入れています
本棚に追加
―――
――――
幾多の時が過ぎたのだろうか…。私の体は泉の水に浸かり、肩と首だけが陸地にある。
気が付いたらここにいて、目を覚ましてからずっと動いていない。
「……痛みがない…」
ここは神々の泉。
回復力のある水が、私の腹の傷を癒したのだろう。
妖怪だけではない。
この泉は人間をも癒す。
木々から零れる木漏れ日が神秘的で、風が吹くと、まるで草木が歌っているかのように聞こえる。
それが子守唄かのように、私に眠気を委ねてくる。
だが私はその眠気を押し返し、泉から体を出した。
すっかりふさがった傷口を一撫でし、私は暗い森の中へと足を踏み入れた。
人間が入れば、確実に迷う。
妖怪でも、迷わない事はない。
ここは神が住むとされる森で、時々悪戯か何かで、生き物をこの森から出さないようにしている。
まぁ本当かは私にもわからない。
しばらく歩いていくと、そこには黒い霧が渦巻いている。
私はそこに手を伸ばし、ゆっくりと渦の中に入っていった。
私が渦の中に入ると、その黒い霧は消え、元の景色に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!