其の参 神妙なる眼界物語

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何も見えない闇の道を進んで行くと、これまで聞こえなかった自分の足音が聞こえるようになった。 だんだん薄らと見えてきたのは、焼け焦げた家や草木、土、人…。まるで戦場の跡かのような場所。 「美羅… 随分と遅かったのね」 私に話し掛けてきたのは、焼け焦げた人の上に足組みしながら座っている、彩香と言う奴だ。 最近漆黒に入ったばかりなのに、もう一人前面をしていて、だんだんと苛々してくる。 漆黒とは、闇の力を持つ選ばれし者の集まり。 彩香をいれて、今は6人になった。 闇があるなら光もある。 だが私はその光の族をしらない。太陽光、月光は、確かに名前に光は付いているが、力はたんなる太陽と月の力だ。 祢々渕様にお聞きしてもご存知なく、彩香には聞くだけ無駄。 「邪魔が入った ただそれだけのこと…」 「それで負けて帰ってきたの? ん?」 「……! そろそろ黙れ彩香…!」 私が低い声で怒鳴れば、こいつは何でも泣けばいいと思っているから、直ぐに泣く。 そして…。 「祢々渕様ー!」 直ぐに祢々渕様の元へと逃げ出すのだ。 本当見ていて腹が立つ。 彩香が向かった先には、こちらに歩いてくる祢々渕様がいて、彩香が抱き付くと、少し困ったような顔をする。 なんて無礼な奴なんだ。 あんな奴は漆黒にいらないのでは? 「……美羅よ… こやつはまだ世をしらぬ あまり怒鳴り散らすでない…」 「……すいません…」 祢々渕様は彩香を宥めた後、彩香をその場に残し、私の方に歩いてくる。 凛とした細い眼差しに見つめられると、まるで時が止まったかの様に体が動かなくなる。 「霄壌は相も変わらず遠いの… それは美しい羅漢と彩られたと勘違いをした香りの力の差と同じ…」 祢々渕様はそう言うと、私の耳元に顔を近付けてきた。 少々顔を赤くする私を見て、面白そうに笑う祢々渕様は、私にしか聞こえない声で囁いた。 「闇に彩られし香りはいらぬ…」
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