其の参 神妙なる眼界物語

12/19
前へ
/89ページ
次へ
はっきり言って、私はとても驚いた。 祢々渕様は敵を殺せとは命じた事があったが、仲間を殺せとは一度も命じた事がなかった。 なのに今回の指示は彩香を殺せ…。 そんなにも彩香が気に入らなかったのか。 「ね…祢々渕様…!」 「美羅… 心はいらぬ 全てはこの世の破壊のためと思うておればよい」 「………」 そう言い残し、祢々渕様は姿を消した。 彩香と私…。 ここには今私達2人しかいない。ならば今…。 「ねぇ美羅 祢々渕様は何て言ってたの?」 彩香は私の直ぐとなりに来て、腰を下ろした。 力でいえば、彩香より遥かに私が上だろう…。 今すぐにでもこいつを殺せる…。だが…。 「内密にせよと言われた だから言えない」 そう言って、私は彩香の側を離れ、先程の闇の渦に入っていった。はじめは聞こえていた足音もだんだんと消え、そして消えてしばらく経つと、クシャクシャと葉を踏む音が自分の足元から聞こえてくる。 闇から出ると、そこは神々の泉。また戻ってきてしまった。 私は、泉の近くにある一本の大樹に背を預け座った。 (……殺せなかった…) 私は、一応彩香を仲間だと思っている。 まだ入ったばかりで、生まれてからずっと今の今まで世界を知らなかった。 だから礼儀を知らない。 そう考えていて、ならもう少し経てば、礼儀も知り、力もつくのではないかと思った。 だがそこで1つ疑問がある。 祢々渕様は何故彩香をいらないと考えているのか。 名前がいけないのだろうか…。 ならば彩香に名前を無理にでも変えさせる。 正直に言えば、私は彩香を殺すのが嫌だ…。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加