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「仕方ないよ美羅
深く悩まないで
久保は美羅が元気ないと寂しいよ?」
いつからいたのか、大樹の枝の上に腰を掛けながら、久保は私に微笑みかけた。
久保も漆黒の一員で、私が入る前からいる。
久保はしばらくすると、枝から飛び降り、音もたてずに着地した。この身軽さが、一応化け猫の力の1つだろう。
「久保…
私は一体どうしたらいい?
きっと私は彩香を殺せない…」
「久保もね?
昔祢々渕さんにそうゆう命令をされた事があるよ」
まさか久保も受けていたとは、思いもしなかった。
冬の冷たい風が頬を擦る。
寒さは感じなかった。
今は久保の次の言葉を待つことしか出来ないだろう。
「…新くんって呼んでたんだ
とっても仲が良くてね
夜になると、毎日のようにお酒を飲んでいたんだ
けど、祢々渕さんからの命令が出て…
最初は断ったんだけど、祢々渕さんは許してくれなかった
だから……」
サァ……。
木々が風に揺れる。
ほんの数秒の沈黙も、何故かとても長く感じられる。
久保は少し涙目になりながら、重たい口を開いた。
「だから……
久保は新くんを殺した…」
「………」
涙が今にも溢れだしそうな瞳を見ていると、久保の悲しみが私にも伝わってくる。
大切にしていた友を、自らの手で葬る。
それはとても悲しくて、一緒心に傷を残すだろう。
もし私が彩香を殺したら、私も一緒その悲しみを背負っていくのだろうか。
「美羅…
別に殺すなとは言わない
久保も新くんを殺したから、今を生きていられる
美羅が彩香を殺したら、一生消えない傷が美羅に出来てしまう…
自由にするといいよ…」
そう言った久保は、すたすたと森に向かって歩いていく。
そんな背中を見送っていくと、久保の足がピタリと止まった。
そして振り返らずに、久保は口を開いた。
「だけど久保は
新くんを殺して、とても後悔してる」
「……そう…」
そう言うと、久保は暗闇へと消えて行った。
後悔…。
それはどのような気持ちの事を言うのだろうか。
私はこれまで悔いの残らぬように生きて来た。
祢々渕様と居れば、それがいとも簡単に出来てしまう。
だけど今回のはどうなのだろうか。
私は彩香を殺して、後悔してしまうのだろうか。
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