其の参 神妙なる眼界物語

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「……わかんないよ…」 私は膝を曲げ、膝に額をおく。 そのまんま目を閉じると、そこには闇がある。 目を開ければ色鮮やかな景色も、目を閉じれば暗闇に閉ざされる。 もしかしたら久保も、新くんとやらをなくして、瞼を開けずにいるのだろうか…。 だがきっと私はそうならないだろう。 私は久保とは違う。 後悔などするものか。 私は私が思うままに生きる。 彩香ごときに私の生きざまを邪魔させるものか。 「美羅に何故あんな事を言ったのですか…」 枯れはてた地。 人や生き物の骨がそこら中にある。 そんな地に、さき程神々の泉にいたはずの久保と、何処かに行ったはずの祢々渕がいた。 祢々渕はそこら辺にある骨を拾うと、その骨に向かって何かを言った。 「何故と? ならば何故お前はそうも美羅を気に掛ける…」 「美羅に久保と同じ道を歩んでほしくない ただそれだけです」 久保がきっぱりとそう答えると、祢々渕は何だか少し楽しげに微笑み、久保の方に歩み寄っていった。 「ならばわらわも同じじゃ… 美羅には間違った道を歩ませとうない… 命に従えば、必ず正しき道へと誘われる…」 祢々渕がそう言うと、久保は少し眉間に皺を寄せる。 それを見た祢々渕は、さらに楽しそうに微笑んだ。 「お前も今生きておる それはわらわの命に従ったからじゃ もしあのまんまあやつを野放しにしていたら、間違いなくお前は殺されておった… そうじゃろ?」 祢々渕にそう言われた久保は、何も言い返せなかった。 正しい祢々渕の言葉に、何も反論できない。 そんな自分を情けないと思い、久保は唇を強く噛んだ。 唇からはゆっくりと血が垂れてゆく。 枯れはてたこの地は、500年前の人間と妖怪の戦いが起きた時、一番戦が激しかった場所。 四天王と呼ばれる中の1人、サカキバ紅秀が死んだ所でもある。 その後、ここは墓場、枯れ地などと呼ばれるようになった。 「美羅に… 彩香を殺すなと命令してください」 「ふん 何も知らぬ猫が… 全てを知った後、貴様はわらわにもう一度その言葉を言えるかのぉ?」
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