6人が本棚に入れています
本棚に追加
子供の声は母親らしい女性の声でかき消された。
「お母さん!」
子供は、俺の存在を忘れたかのように、俺から離れ母親の元へと走る。
そこに僅かに残るのは、子供の髪を撫でたときの柔らかな感触。
一瞬ごとにその感触は失われ、後に残るのは空虚感――
それに耐えきれず俺はその場からそっと離れた。
「どこに行ってたの!? お母さんずっと探してたんだから!」
「僕、ずっと待ってたもん。でも、あそこのお兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ。……あれ? お兄ちゃん?」
雑踏に紛れた俺の姿を見つけることは出来なかったらしい。
親子は暫く俺の姿を探すように、きょろきょろと辺りを見回している。
が、やがて、諦めたように雑踏の中に溶けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!