蜘蛛の糸

6/7
前へ
/8ページ
次へ
  子供の声は母親らしい女性の声でかき消された。 「お母さん!」 子供は、俺の存在を忘れたかのように、俺から離れ母親の元へと走る。 そこに僅かに残るのは、子供の髪を撫でたときの柔らかな感触。 一瞬ごとにその感触は失われ、後に残るのは空虚感―― それに耐えきれず俺はその場からそっと離れた。 「どこに行ってたの!? お母さんずっと探してたんだから!」 「僕、ずっと待ってたもん。でも、あそこのお兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ。……あれ? お兄ちゃん?」 雑踏に紛れた俺の姿を見つけることは出来なかったらしい。 親子は暫く俺の姿を探すように、きょろきょろと辺りを見回している。 が、やがて、諦めたように雑踏の中に溶けて行った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加