蜘蛛の糸

7/7
前へ
/8ページ
次へ
  「すばる……か」 思わず口を付いて出るのは、先ほどの子供の名前。 自分の手をじっと見つめてみたが、さっき感じた温かな気持ちはもう思い出せない。 冷たい雨が、俺の気持ちを代弁するかのように容赦なく俺の身体を濡らす。 しかし、雨に濡れた程度では俺の中に燻った(くすぶった)醜い心を冷ますことは出来なかった。 ――心の中を支配するのは、少年に対する嫉妬心。 誰でも良い。俺を見て、俺だけを愛してくれる人が、欲しい。 「まだ時間は早いが……誰か、俺を愛してくれる人を探そうかな」 携帯に登録された電話番号をスクロールさせながら、今宵限りのご主人様を探す。 「――もしもし? うん。俺。今から行って良い? ……分かった。じゃあ、1時間後に」 こうして俺は、ひとときの愛を求めて、1匹の蝶の元へと歩き出す。 いや……。待っているのは蜘蛛か。 蜘蛛でも良い。俺を絡めて、縛って、俺だけを見て欲しい。 了
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加