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「すばる……か」
思わず口を付いて出るのは、先ほどの子供の名前。
自分の手をじっと見つめてみたが、さっき感じた温かな気持ちはもう思い出せない。
冷たい雨が、俺の気持ちを代弁するかのように容赦なく俺の身体を濡らす。
しかし、雨に濡れた程度では俺の中に燻った(くすぶった)醜い心を冷ますことは出来なかった。
――心の中を支配するのは、少年に対する嫉妬心。
誰でも良い。俺を見て、俺だけを愛してくれる人が、欲しい。
「まだ時間は早いが……誰か、俺を愛してくれる人を探そうかな」
携帯に登録された電話番号をスクロールさせながら、今宵限りのご主人様を探す。
「――もしもし? うん。俺。今から行って良い? ……分かった。じゃあ、1時間後に」
こうして俺は、ひとときの愛を求めて、1匹の蝶の元へと歩き出す。
いや……。待っているのは蜘蛛か。
蜘蛛でも良い。俺を絡めて、縛って、俺だけを見て欲しい。
了
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