第一章 中津川環は恋を知る

13/57
前へ
/155ページ
次へ
 しかし、納得しただけだ。頭の中で理解したに過ぎない。  だからそれを行動に移すとなると、途端に頷けなくなる自分がいた。 「朋美の言いたいことは良く分かった。でも、ごめんね。私には多分できないと思うの」  朋美が面食らった顔をした。迷いなく拒否されたことに相当驚いたのかもしれない。 「ちょっと待ってよ。あんたちゃんと考えたわけ?」 「考えたわよ。だからごめんって言ったの。せっかくのアドバイスだけど、私には無理よ」 「何でよ! 環がその気になれば男の一人や二人くらい簡単に……」  そこまで一気に言い切ったところで突然、朋美が言い淀む。  しばらく私の目をジッと見つめ、真剣な面持ちでためらいがちに言う。 「あんたってさあ、もしかして男と付き合ったことない?」 「うん」  私は迷うことなく事実のみを答える。  対する朋美はあちゃーと頭をかき、自分の読みの甘さを反省していた。 「環らしいといえば環らしいというか……道理でああいう態度をとるわけだ。今すっごく理解した」 「ああいう態度って?」 「男と距離空けたがってるとこ。あんた、いちいち隣の男との距離感気にしてから。最初はタイプじゃないからとか思ってたんだけど、それ以前ってわけね」 「別にそういうわけじゃ……」 「じゃあどういうわけ?」 「……ごめんなさい」  私の完全敗北だった。朋美はそら見ろ、と勝ち誇る。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

362人が本棚に入れています
本棚に追加