362人が本棚に入れています
本棚に追加
「環ちゃんってさ、何でそんなに完璧なの?」
そういう言葉をよく言われる。言っている本人からしたら褒めているのかもしれないけれど、私にしてみれば馬鹿にされているようにしか聞こえない。共通認識でないことは明確だった。
言われ慣れ過ぎてひどい時には幻聴として聞こえてくるくらいよく耳にするフレーズ。でも、今聞こえたのは決して幻聴ではない。極めて現実の事だ。
私、中津川環はいつものように人当りのいい笑顔を正面に向ける。大学の同じ学部のクラスメイトの男子が三人、私のことを興味津々な様子で見つめていた。それがあまりに熱っぽくて体が少し引けた。はっきり言って怖い。
「何でって言われても……第一、私は完璧なんて言葉から程遠いし」
完璧な人間なんてこの世にはいない。仮にもしいたとしても、それは決して私みたいな一介の大学生なわけがない。
本心からそう言ったつもりだったけれど、彼らはそうは捉えてくれなかったらしい。
「そんなことないって。環ちゃん、入試の点数一番良かったじゃん。頭良い奴ばっかりが集まるうちの大学でそれはマジですごいって」
「それにめちゃくちゃ可愛いしスタイルもモデルみたいだし」
「これで完璧じゃなかったら、完璧なんて言葉は広辞苑から削除するべきだと思うね」
何様だと思える発言に他の二人が頷く。ならぜひ削除するべきね、と内心皮肉っぽく思ったがそれは自分の胸の内で留めておく。
言ってはいけないことくらいは心得ているつもりだ。
最初のコメントを投稿しよう!