第一章 中津川環は恋を知る

3/57
前へ
/155ページ
次へ
 私は答えに困りとりあえず曖昧な笑顔を浮かべると、遠慮するところも謙虚でいい、とまたしてもリアクションに困る褒め言葉をもらってしまった。  頭の良い大学生だからといって知識的な会話をするわけではないみたいだ。むしろその逆で、自分で自分のことを頭が良いと思っている彼らが滑稽にすら思えてくる。  チェーン展開の居酒屋に入ってから二時間が経過。みんなそれぞれお酒も進み、徐々に気分も高ぶって羽目が外れ始めていた。その証拠がこのやりとりだ。  今日は大学に入学して初めてのクラスでの親睦会。そして初めてのお酒の場。  ちなみに本来、お酒は二十歳を過ぎるまで法律で禁止されている。なので、私はみんなの勧めを言葉巧みにかわしてウーロン茶を飲んでいる。  法学部でこれから法律を学んでいく以上自ら法律を破るなんてとんでもないことだし、私は根が真面目というかルールを重んじるタイプだからどうも抵抗があった。  しかし、他のみんなは私に構わず次から次へとお酒を飲み干していく。お酒をよく知らない素人の私の目から見ても無茶苦茶なペースで、何人かは端の方でグッタリしている。  本当ならそろそろ止めるよう注意したいけれど、会って一週間の相手に言うにはなかなかハードルが高い。それにもし言って空気の読めないやつだと思われて入学早々みんなの輪から外されるのも怖くて、結局言えずにいた。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

362人が本棚に入れています
本棚に追加