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「邪魔? そんなの知ったことじゃないわよ。あたしは環に良くない虫がつかないように見張ってるだけだから。例えばあんたとかね。言っておくけど、あたしの目が黒いうちは変なことさせないから」
言いたいことだけ言い切ると、男子の間に強引に割って入って私の腕をつかむ。
私は状況が分からなくて咄嗟に返せない。
「え?」
「いいから立って。あんたこれから用事あるんでしょ」
朋美と呼ばれる彼女は有無を言わせず私を立たせる。私と自分の荷物をつかむと、唖然とする場の雰囲気を物ともせず極上の笑みを浮かべて言った。
「お先に失礼しまーす」
店を出ると週末の飲み屋街は賑わっていた。私はいまだに朋美に手を引かれたままで、言葉を交わすこともままならない。さっきの剣幕からして朋美は怒っているようだった。
確認してみたいところだけれど、火に油を注ぎそうで踏み切れない。
そうこう悩んでいる間に朋美は駅とは違う方向にずんずん歩いていく。雑踏から離れると、夜の静けさに包まれた住宅街に辿り着いた。飲み屋街のムッとした湿気まみれの空気とは対照的に、夜のひんやりとした空気が火照った体を冷やしていく。むしろちょっと肌寒いくらいだ。
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