362人が本棚に入れています
本棚に追加
と、朋美がようやく振り返る。予想通り、朋美は怒っているのか眉が厳しい。
朋美みたいな派手な美人が怒るととてつもない迫力だ。
どうしよう。気まずい。何て言ったらいいんだろう……。
必死に言葉を探していた私だったが、しかし意外とあっさりに朋美は口を開いた。
「環。あんた周りに気つかいすぎ」
第一声、早速私の痛いところを突いてきた。答えられるずにいると、朋美は呆れたようにため息をこぼす。
「はぁ……ほら。それよそれ。あんたはあたしにだって気つかってる。そういうのやめなよ」
「……ごめん」
自然と謝罪の言葉がこぼれた。否定しなかったのはそれが事実であるのもそうだが、朋美相手に嘘をつくことをよしとしなかったからだ。
彼女の私にぶつける言葉には怒りはもちろんあるけれど、それと同時に思いやりもしっかりと感じられた。クラスメイトたちが向けてきたものとは全く違う、私のことを考えてくれている。
彼女、椿原朋美 (ツバキハラ トモミ) とはまだ知り合って数日だが、不思議とすぐに打ち解けて今では大学で唯一心を許せる間柄になっていた。今日だって不満を言えずにいる私を見かねて助け出してくれた。そんな迷惑ばかりかけている朋美には、せめて素直でいたい。
最初のコメントを投稿しよう!