第三十譚 乖離の空

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「考えてみてごらん、ダミアン君。君は何のためにここにいるんだい? ロギスモイ軍として、失楽園に仇なす人物を討ちにきたんだろう?」 「……」  メメディの言葉に、ダミアンがす、と目を細める。彼は確かに忠実に職務を全うしているだけのはずだ。ニーナがその敵方に加担しているために雪做やサイトバラッドまでもが彼女の味方をしたせいで混沌とした状況となっているが、本来彼らが争う必要性はない。 「彼らを倒すのではなく……【エデン】へ行け、ということですか」  ダミアンが引き抜いていた剣をしまいながら言った。彼の言葉にメメディはにっこりと笑いながら頷く。 「分かりました。良いでしょう。ただし彼らが失楽園に無害であることを証明できたなら、ですが」 「……」  ダミアンの言葉に、メメディは笑顔を浮かべたまま口を開く。 「それはできないかな。そして俺もその答えを持ち合わせてはいない」  そう言ってメメディは見上げる。空を。そして空を切り裂くように聳える【エデン】を。 「ただ────彼ら以上に恐ろしい存在が今、転覆を図ろうとしていることだけは事実……だと思うよ?」 「……」  メメディの言葉に、ダミアンは無言で【エデン】を見上げた。だが彼は動こうとはしない。まだ彼にとってはこの場所を動くだけの理由はない、ということだろう。  想定していた通りではあるけど……やっぱりリリスと似ているな、この子は。  一見筋を通しているように見えて、彼はその実自分の興味が一番の行動原理だ。今回の事態もロギスモイ軍の軍人として正しい行動をしているかのように見えて、実は自身の興味のある方にしか動いていない。  だとすれば、彼が動く一番の動機を与えてやるしかない。  リリスの興味がダングルベークに一心に向かっていたように。  彼の興味の的を引き合いに出すしかない。  友人でも恋人でも仲間でも悪友でもない。彼の興味の────唯一例外的にその【結果】を気にする相手である【家族】。 「でもさ……突然ジュニア君もどうしちゃったんだろうね?」  そしてそれは、義弟であり本来従兄弟という繋がりであるグリム・S・アーカイバーが相手でも、そうだ。 「……何?」
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