第一譚 ダイナの迷い

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 【偽王国】の中は、とても暗い。こんな場所に何日もいれば気が狂ってしまうのも簡単に理解できるようなものだ。  階段を降りて牢屋があるエリアに入ると、その傾向は増す。牢獄と牢獄の間にある申し訳程度についた炎と、自身の手元にあるランプを頼りに、血に塗れた廊下を進んだ。  左右からは阿鼻叫喚が聞こえてくるが、気にして居てはこちらの精神が保たない。ニーナは一切の音を排除し、思考のみに集中した。  ────そもそも、封印が解かれたとはどう言うこと? 私がかけた封印は解かれていない。つまり、解かれた封印と言うのはヴィンセントのもの……?  ニーナが今向かっている【偽王国】最下層に閉じ込められていたのは、一人の青年。  名は、ジャックJr・ホラーハイズ。又の名を、グリム・ソフィア・アーカイバー。四天王第一位にして【十二番目】と言う、なんとも奇妙な肩書きが揃う人物だった。  その彼は、33年前から、とある殺戮が原因で封印されて居た。  封印に携わったのは二人。このニーナともう一人、ヴィンセント。  肉体の封印をヴィンセントが、毒の封印をニーナがかけた。四天王による二重封印と言う、類を見ないほど厳重な封印だった。  通常、封印は行われない。死刑が執行されるからだ。  だが稀に、失楽園を裏切りながらも、類稀なる貴重な能力を持つ【十二番目】がいる。そう言う人物は、【処刑執行者】によって封印が施され、強力であれば四天王が封印を施す。  彼の場合封印された理由が少し違うが、死刑が決行出来ない理由があった。その為強固な封印で死と同じ状況に貶めてしまおう、としたのだが……。  ────……一応、私が施した封印の状況も見ておきましょうか。 「サブノック!」  ニーナが言うと、右手人差し指に填められた銀の指輪が熱を持ち、輝き出す。  銀の指輪が纏った薔薇色の毒は、銀の微かな融解と混じって、空中にシジルを描いた。シジルというのは【悪魔】を呼び出すための式のようなものであり、契約している悪魔全てのシジルを脳内に定着させているニーナは、一々描かずとも勝手に毒が形を描いてくれる。  シジルから、【失楽園】においても異様な存在である悪魔が姿を現した。ルシファーの眠る地中奥深くで共に生息しているとされる彼らだが、真実はニーナも知らない。  ……まぁ、正直使えればいいので、調べようともしていないだけなのだが。
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