第一譚 ダイナの迷い

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 下りて居た螺旋階段に召喚された兵士姿のサブノックは、ライオンの頭を深々と下げた。  ニーナと契約している悪魔達の総称は、ソロモンの72柱。  王、公爵、王子、侯爵、長官、伯爵、騎士に分類されており、ニーナが指輪として填めている金、銅、錫、銀、銅銀同比率の合金、鉛、そしてネックレスとして腕に絡めつけている水銀を媒体として召喚することができる。  ニーナが左親指に填めている印象指輪が、契約の証。この指輪を消失した場合、もしくは奪われた場合、ニーナはソロモン72柱を召喚できなくなる。  その場合はグリムリーバーとしての力で戦うか、ニーナ本来の……いや、【私】本来の能力で戦うしかない。尤もニーナにとって悪魔は手段の一つという扱いでしかなく、重きを置いているわけではないのだが。  今呼び出したのは、その内の一体、43の侯爵サブノック。話せるよう形骸として召喚しただけであり、今は亡霊のようになんの力もない。  故に詠唱も必要なく、ニーナ自身の毒の消費も殆ど皆無だ。 「御用でしょうか、マエストロ」 「……貴方、33年前にかけた封印を覚えている? それを解いた……もしくは解かれた記憶は?」  恭しく聞いてくるサブノックの姿にやや辟易しながら、ニーナは問うた。  するとサブノックは、はて、と呟き、首を傾げた。ライオンの頭がごろっとずれるのは、正直怖い。いつか首が重さに耐え切れず、頭だけ落ちてしまいそうだ。 「マエストロに建設を命じられた【建築物】が壊れた記憶はありませんが」  サブノックが示す、建築物。その意味は、封印だ。  相変わらずわかりにくい比喩を織り交ぜて話してくるソロモンの悪魔達に辟易しながら、ニーナは指を噛む。  封印を行う際、ニーナはいつもこのサブノックに任せている。元々建築を行う能力のあるサブノックに、応用で封印を建設させているのだ。故に、彼は封印もまた【建築物】と呼ぶ。  元来嘘つきな者を除き、ソロモンの悪魔はニーナに嘘をつかない。サブノックが壊された、と言っていないのだから、封印はまだ解かれていないはずだ。  それにそもそも、封印が解かれればニーナも気付く。ソロモンの悪魔達とニーナは、半ば融合しているに等しい。つまり、彼らの感覚はニーナにも共有される。  だが、それ故に疑問が残る。毒を操れない状況で何故、彼はヴィンセントの封印を破ることが出来た?
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