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ぎり、と噛み締めた手袋が、酷く嫌な音を立てる。ニーナは唇を話すと、なるべく冷静に努めてサブノックを見た。
例え自身の契約している悪魔であろうと、醜態を見せたくはない。
「そう。ありがとう、下がっていいわ。また話を聞くかも知れないから、留意して頂戴」
「イエス、マイロード。仰せのままに」
随分と仰々しいお辞儀とともにサブノックに、こいつらただかっこつけたいだけなの? と思いながら、本日何回目かわからないため息を吐きそうになる。
マエストロだのロードだの、本当は意味を理解していないのでは無いか。いつかマイスターだのサーだの呼ばれそうだ。サーとだけは呼ばれないことを願う、私の性別が変わってしまうから。
……行って直接確認するしか無いか。
悪魔一体呼び出しただけで何たる疲労、と思いつつ、悪魔なのだから当たり前か、とまた自分の考えに呆れていると。
目の前に、一つの扉が現れた。他の扉と違い異質なその扉の前には、何人ものグリムリーバーが集って居た。数人、堕天使の姿も見える。
……先輩、貴方とんでもない存在になってしまったわね。
見上げても収まり切らないほど大きな青銅色の扉。刻まれた天使の像は全て首や羽が折られていると言う、無惨極まりない姿。
ここがまだ楽園であった時代には、もっと高貴な仕事をして居たであろうこの扉も、今では血を浴びて血に浸り、裏切りに堕ちた者達を幽閉する場所となっている。
…………そもそも失楽園はルシファーの反乱によってできたはず。もっと革命の類に寛容でもいいはずなのに、結局彼らは神が気に入らなかっただけなのね。
裏切り者は徹底的に排除して行く失楽園の様をみて、ニーナは思った。無論こんなことを面と向かっていえば、訳のわからない屁理屈を捲し立てられて話にもならないだろうが。
「扉、開けてくれる」
ニーナは、扉の前に立ち塞がる人物に向かって言った。顔がよく見えないのかニーナだと認識されていないらしく、首を横に振られた。
「駄目に決まっているだろう、四天王様が来るまで待て!」
────……少し考えれば分かるものを。お馬鹿さん
ニーナが強行突破することを恐れたらしいその人物は、仲間の騎士と共に門の前へ翳していた槍を、向けて来た。
「それでも入ると言うなら、貴様も【12番目】と見做し」
「……ふぅん。大層な口をきいてくれるわ」
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