第二十九譚 私にとっての負け

34/67
前へ
/1802ページ
次へ
 ジャンヌは当初、両親を八つ裂きにした犯人は兄グリムの仕業だと思っていたようだった。話を聞いている中では当然行き着く結論であったし、雷斗自身、違和感を覚えることはなかった。だが、隠されていた過去を探る中で、ジャンヌは犯人がグリムではないという結論に至ったらしい。  とはいえ、犯人がグリムで無かったからと言って即ちすぐに別の犯人が見つかることは無いようだった。  当たり前だ。犯人が33年前の事件の首謀者と言われるグリムでないのなら、その正体を探るのは容易ではない。  【処刑執行者】であるジャンヌでも犯人の目星すら皆目見当がつかなかったようで、犯人探しは難航している様子だった。雷斗も彼女の口からその話が減るにつれ、あまり犯人のことを気にしなくなったくらいだ。  しかし。その犯人が目の前にいるというのなら、話は別だ。雷斗が驚きで目を見開く中、ひと際大きく息を飲んだ人物がいた。グリムの従者で、一時期はジャンヌと仲が悪かった様子のサイトバラッドだ。  話を聞いていたサイトバラッドは、最早蒼白などという言葉で表せないほど顔色を悪くしていた。まるで息をしていないのではないかと思えるほどに。 「彼は、兄を自分で壊したかったんでしょう。とすれば、彼の兄に手を出す輩は敵です。それは兄が大切だからではなく……兄憎さ故。どうですか? 嘘ではなかったでしょう」  是堂の言葉に、ダミアンは失っていた力を籠めていく。 「君の政治的な物言いの上手さには目を見張るものがあるよ。とても寡黙で不器用だった【彼】の息子とは思えない」 「……」  フィノの言葉に、是堂が顔を歪めた。明らかに見せる彼の不機嫌な顔に、ダミアンが眉を寄せた。 「性格のほうはどうやら、口達者で度胸のある母親譲りのようだ。……兄と同じ。優しい母の性格を受け継いだ兄と」 「……?」  フィノの呟きに何か違和感を感じ取ったらしい。是堂が警戒を露にする中、【それ】は起こった。 「俺がほんの欠片でも母の優しさを受け継いでいれば、違ったんだろうな。俺は一から百まで……【父と同じだ】」 「────っ!?」  次の瞬間。フィノを覆っていた鎖が、はじけ飛んだ。  その危機を察知したダミアンが避けたが、激しい風に煽られ、彼ですらバランスを崩しながら着地する。全身を酷く負傷している是堂が立ったままでいられるはずもなく、彼は風に煽られ、吹っ飛ぶ。 「っぐ!」
/1802ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加