第二十九譚 私にとっての負け

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 ダミアンは探知が下手なわけではないが、ソラ達はその探知に引っかからない最たる存在である【被験体】だ。簡単に見つけろと言ってくれたが、彼らに本気で隠れられてしまえば至難でしかない。  さて。どうしたものかな。  ダミアンは一瞬思考した後、瞼を一度閉じた。その瞼を再びダミアンが晒す。【魅了】の魔術と共に。 「────」  ダミアンと視線が合ったものが、そしてダミアンの近くを通り過ぎたものが、次々とその毒にあてられて振り向き【魅了】にかかっていく。それは蜘蛛の糸のように気づかぬうちに、そして逃すことなく捕らえていく。  全ての者の視線が一挙に集まってくる中、ダミアンは薄い唇を開いた。 「四天王補佐【是堂雪做】を見かけたものはいるか」  その唇が低い声を奏でる。捕らえた心を震わせるように。  お前の【眼】と違い、俺の眼では届かないなら。  すべての【眼】を使うだけだ。       ◆◆◆  【少女】を抱きとめたその腕は、長い爪に覆われていた。  大嫌いで最低な爪。だがその瞬間、それを目にした俺に浮かんできたのは憎悪でも嫌悪でもなかった。  持っているのだと。  【守れる力】を持っているのだと……。       ◆◆◆ 「うわぁあああッ!」  激しい勢いで動く、足元の存在。固い剛毛とその下にある柔らかい毛。ダブルコートのその毛は犬と同じ、なんて呑気なことを考えていられたのは最初の数秒、飛び上がる前だけだった。 「お主……もう少し静かにできんものか。うるさくて敵わん」  唯臣を背に乗せた悪魔がため息を漏らす。その背中に必死でしがみ付きながら、唯臣は頭を大きく横に振った。 「だ、だったらもう少し丁寧に飛べよぉ! てか飛ぶなよぉ!」 「馬鹿を申すな、飛ばないでどう並行軸を超えろというのだ」  ぶつぶつと呟かれる悪魔の言葉を耳には入れているものの、頭で考える余裕のない唯臣は口から絶叫だけを漏らす。あぁうるさいうるさいと悪魔は呟き続けた。 「なんて輩だお主は……ほれ、突入するぞ。よく見ておけ」 「はぁ!? 見るって何っ────を────」  そう言いかけて。唯臣の口が閉じる。目に飛び込んできた世界。それが唯臣の心を捕らえたから。 「────っ」  言葉を、失った。
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