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ジップコードの言葉に、唯臣はその眼を向けただけで吠えなかった。納得したのだろう。
「……」
引き際を妙に良く弁えている。これは……。
「恐ろしいカードになるかもしれんさー? ま、誰に対してかはわからんけどなー」
ジップコードが呟く。その姿をえー、と声を漏らしながら呆然と見ていたアレンが頭を押さえた。
「……どうするの? スフォリア」
唐突に現れた子供[餓鬼]に良いようにしてやられ、怒りを覚えている上官に対しアレンが問うた。いくら唯臣に多少翻弄されたとはいえ、スフォリアの実力は誰より直属の部下であるアレンが知っている。
「放っておけ。今の脅威はこの少年らしい。……少年、と言っていいのかも分からないが」
スフォリアの言葉の理由は、ジップコードにも分かる。最初は人間らしく二足歩行を見せていた唯臣だったが、いつの間にかその体制は四足歩行へと変わっていた。人間とは思えないほど見開かれた瞳も、むき出しにされた歯茎も、空を掴む手も、全てが【獣】そのもの。
「狩りの時間だ」
「オーケー、ボス」
鞭を引き絞るスフォリア。その横でアレンが剣を一本引き抜いた。
────さぁ……お前はどうするつもりなんさ? 狼人間……。
◆◆◆
「甘いね。本当に甘いよ、蜜乃」
「……」
ぽたぽたと垂れていく水。それは蜜乃の全身を覆っていた水だった。髪と頬を濡らす水が、空気を求めて小さく開いていたニーナの唇に伝い、舌に触れた。その水は背後の声が告げるように甘かった。砂糖水のように。
ついた膝は、水に浸っている。水はまるで肌と一体という様に、冷たくも温かくもなく、体温を奪うわけでも与えてくるわけでもなく、ただそこにある。
だが。その全身はつい先ほどまで、蜜乃の全身を覆いつくしていた。ただそこにある水に、全身が浸かっていたのだ。まるで蜜乃という存在自体が、水になってしまっていたとでも言う様に……。
蜜乃はゆっくりと、両手をあげる。手のひらから流れ落ちていく水は、光が反射しているからか肌と一体化しているように見える。いや……この水はもう、肌なのか?
「このまま浸かり切って溶けちゃうところだったよ」
背後の声。その声を追って、私は顔を上げる。
私は……ニーナ・グレーテルは、エデンで戦っていたはずだ。そこでそう、堕天使達に負けそうになって……。
「膝をついた[負けた]はず……」
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