第二十九譚 私にとっての負け

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 だが、唯臣には分かった。その赤は先ほど唯臣の前に立ち塞がったジップコード達と同じ赤だけれど。彼女はその赤を、御している。  今まで怖いとしか思っていなかった火刑者達と同じ目を持つ蜜乃。それは火刑者と比べても深く恐ろしい赤なはずなのに。唯臣はその目から視線を逸らせなくなっていた。 「私と契約してほしい」 「────え」  その蜜乃が、口を開く。彼女の言葉に、唯臣は息を大きく飲み込むとともに目を見開く。  契約する。それは今までの【契約者の知り合い】という一線を越え、唯臣自身が【当事者】となるということだ。  ドクン、と大きく心臓が脈打った。唯臣は今までずっと、守られている立場だった。友[生布]のために戦ったことはある。だがそれは取り戻すためだけの戦い。  奪い奪われるかもしれない世界に、俺は向かえるのか? 「急……だな」  蜜乃の手伝いをするつもりで、確かにここに来た。だが、唯臣にとって彼女は結局【妹】の知り合いという立ち位置だった。いや、それは蜜乃だけではない。狼人間という化け物を持つ唯臣は、どれだけ他人と仲良くしていても、最後の一線だけは超えることが無かった。それこそ唯臣にとって今全ての支えと言っていい生布でさえ、彼女の【友人】以上の存在になるつもりは無かった。……勿論、本当ならば隣に立っていたい。けれど、それはできない。  例え誰に何と言われようと。  時限爆弾が、人と共に生きられるわけが無いから。 「そうね。急ね」  そしてそれは、蜜乃が相手でもそうだった。  蜜乃のことは強いと思っている。唯臣が心配するまでもないだろう。だが、彼女の隣に唯臣が居ることでデメリットこそあれ、メリットになることは何も無いように思えた。だが……。  そんなこと、目の前の彼女は分かっているだろう。分かっている上で、そう言ってきているのだ。流石の唯臣も、それは理解している。  唯臣が急だと思ったのは、契約者になれと言われたことではない。どうして彼女は急に……【感情を表し始めたんだ】? 「貫きたいの。貫きたいと……思ったの」 「……何、を?」  徐々に喉が直ってきた。声がまともに出るようになってきた中、唯臣は首にあてていた手を離し、蜜乃の方を見た。言っている途中で、気付いたからだ。 「何の……【意志】を、貫きたいんだ?」
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