67人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、唯臣には分かった。その赤は先ほど唯臣の前に立ち塞がったジップコード達と同じ赤だけれど。彼女はその赤を、御している。
今まで怖いとしか思っていなかった火刑者達と同じ目を持つ蜜乃。それは火刑者と比べても深く恐ろしい赤なはずなのに。唯臣はその目から視線を逸らせなくなっていた。
「私と契約してほしい」
「────え」
その蜜乃が、口を開く。彼女の言葉に、唯臣は息を大きく飲み込むとともに目を見開く。
契約する。それは今までの【契約者の知り合い】という一線を越え、唯臣自身が【当事者】となるということだ。
ドクン、と大きく心臓が脈打った。唯臣は今までずっと、守られている立場だった。友[生布]のために戦ったことはある。だがそれは取り戻すためだけの戦い。
奪い奪われるかもしれない世界に、俺は向かえるのか?
「急……だな」
蜜乃の手伝いをするつもりで、確かにここに来た。だが、唯臣にとって彼女は結局【妹】の知り合いという立ち位置だった。いや、それは蜜乃だけではない。狼人間という化け物を持つ唯臣は、どれだけ他人と仲良くしていても、最後の一線だけは超えることが無かった。それこそ唯臣にとって今全ての支えと言っていい生布でさえ、彼女の【友人】以上の存在になるつもりは無かった。……勿論、本当ならば隣に立っていたい。けれど、それはできない。
例え誰に何と言われようと。
時限爆弾が、人と共に生きられるわけが無いから。
「そうね。急ね」
そしてそれは、蜜乃が相手でもそうだった。
蜜乃のことは強いと思っている。唯臣が心配するまでもないだろう。だが、彼女の隣に唯臣が居ることでデメリットこそあれ、メリットになることは何も無いように思えた。だが……。
そんなこと、目の前の彼女は分かっているだろう。分かっている上で、そう言ってきているのだ。流石の唯臣も、それは理解している。
唯臣が急だと思ったのは、契約者になれと言われたことではない。どうして彼女は急に……【感情を表し始めたんだ】?
「貫きたいの。貫きたいと……思ったの」
「……何、を?」
徐々に喉が直ってきた。声がまともに出るようになってきた中、唯臣は首にあてていた手を離し、蜜乃の方を見た。言っている途中で、気付いたからだ。
「何の……【意志】を、貫きたいんだ?」
最初のコメントを投稿しよう!