第三十譚 乖離の空

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「ダミアン様……」  ぼそりと呟いたのは、サイトバラッド。彼女の瞳は冷たい拒絶と共に不安を湛えていた。  それとは対照的に、ダミアンの瞳は金色に輝いている。だがその顔に浮かんでいるのは興奮というより疲弊だった。無理に感情を高ぶらせ、疲れたのだろう。  しかしそれでも彼はここに来た。恐らくはフィノにその【探求心】を擽られて。 「貴方のことだったんですね」  そしてその答えを見つけたダミアンの瞳は、ふ、と石炭のような瞳の色へと戻っていった。結局のところ、ここに居るのは彼にとって誰でも良かったのだろう。ただ自身の興味を満たすために時間をかけ、悩み、そして答えに辿り着く。その過程を愛しているのであって、得た結果には執着しない。 「やぁ。久しぶりだね、ダミアン君」  そう呟いたメメディの顔は自然と綻んでいた。被験体の彼らからすればダミアンは脅威だろうが、メメディからすれば甥っ子くらいの気分だ。  それこそダングルベークとリリスの初めての子供である彼の誕生を、メメディたちは大喜びしながら迎えたことをよく覚えている。あの時の二人の嬉しそうな顔を、メメディは忘れられない。  ダングルベークに手を引かれながら弟の姿を見下ろす、幼き日のジャックの姿も、だ。 「ご無沙汰しております。フィノ様のお言葉でこちらへいらっしゃられたのですか?」  ダミアンの言葉に、被験体達が強張る。フィノ。彼の恐ろしさを彼らは身で感じたはずだ。それは彼らに纏わりついているアーカイバーの毒を見れば分かる。  彼もまた容赦なくやったものだ……。 「いや、違うよ。相変わらずアーカイバー一族は探知能力が酷いみたいだから、彼にアバンチュール君たちの居場所を見つけることは出来ていないと思うよ。君はすごいね。まさかこんな短時間で現れるとは」 「まぁ……【味方】が多かったもので」  そう呟くダミアンの瞳が、一瞬だけ金色に輝く。ダミアンの能力を直接見たことがあったわけではないが、フィノから聞くにその能力は【魅了】だという。その能力で他者を虜にし、僅かな目撃情報を洗い出して辿り着いたと推測できる。  その能力もさることながら、とんでもない探求心だ。分かっていたことだがメメディは内心恐々とする。ロギスモイ軍という存在は、メメディのような人物にはやはり恐ろしい存在だった。  ────なにかを隠し通したいと思っている、そういう者には。
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