第三十譚 乖離の空

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 それを有しているのはメメディの義息子であり、魔女の配下である男……クリスティアド・グレーテル。  彼らの企みは理解している。だからこそメメディはあの場に行く必要があった。だが、1人で行くことはできない。それはただ犬死しに行くだけとなる、まったくの無駄な行為だからだ。  隠居した身とはいえ、メメディはグレーテル一族の長。今でもアーカイバー一族に次ぐ力を有しているメメディだが、とある理由により、クリスティアドや彼ら相手には、全くの【無力[役立たず]】だった。  だからこそ、手足として動く可能性のある人物が必要となる。 「……条件は?」 「ん?」  メメディが思案している様子のダミアンを見つめていると、彼が口元に手をあてたまま、目線だけをメメディの方へと向けてそう言った。メメディの内心を強く探るようなその瞳に、メメディは首を傾げる。 「何か私と取引をしたいのでしょう。でなければ貴方はこんな回りくどい言い方ではなく、行けと命じたはずです。貴方はそう言うお方だ」  ダミアンの言葉に、メメディは肩を竦める。 「うーん……? それって、褒められてる? 貶されてる?」  困惑したような声で、けれどメメディは迷いのない表情でそう返す。 「さぁ。ただそう伝え聞いただけですから」 「ふぅん、そんな風に言ってたんだ。ひどいなぁ、ダークは」  メメディがまるで傷ついているかのように言うと、ダミアンが首を横に振った。 「いえ」  その否定に、メメディは顔を上げる。 「母が」 「……」  へぇ。  それは少し……意外だけど。  ノアはいつも言っていたな。リリスはとても良くみんなのことを見ていると。 「うん、そうだね。そういう性格かもしれない、僕は。まぁ分かりやすいってことで……いや、君に頼みたいことは簡単なことだよ。集めて欲しいと思ったんだ」 「集める?」  メメディの言葉に、ダミアンが目を細めた。その目は金色ではない。だが、死に体のような灰色でもなかった。いつ燃え始めてもおかしくない炭のような黒。そんな彼の目を見ながら、メメディは胸ポケットから懐中時計を取り出した。 「関係者は全て集めて話をしてしまおうと思っているんだ。そうだね……君の妹、ジャンヌも連れてきて欲しい。俺はエデンの入口を開けて待っているよ。あぁ、フィノなら心配いらないだろう。彼の用ならきっともう終わっていると思うから」
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