第三十譚 乖離の空

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「……」  メメディは時計から目を離しながら言うと、無言で考え込んでいるダミアンから視線を逸らし、被験体達へと向けた。 「君たちは帰りなさい。これ以上この件には関わるんじゃないよ。良いね」 「────でも!」  サイトバラッドが不服を露にして叫ぶ。それは雪做も同じだったようで、彼も鋭い目つきで口を開く。 「今更消えろと言われても困るんですけどね。俺の服も盗まれたままなんで」  普段ならば貴族や【教団】の規律を理解し、礼儀正しく慇懃な二人。そんな彼らが全く引かないその姿を見て、メメディは思わずふ、と笑っていた。  大人になり、家族ができ、子供が生まれた。いつの間にか友人と離れ、消極的になっていた自分。彼らの熱意ある姿を見ていると、思い出す。  憎まれ口を叩きながらも支え合った友を。肯定し合い、認め合った友を。足りないものを補ってくれた友を。常識を破り、新しい道を切り開いてくれた友を。  子供[守るべき存在]が巣立っていった今。  もう一度同じ熱を持っても、いいのかもしれない。  ただしあの頃のただがむしゃらだった子供時代とは違い────大人らしい、悪あがきを。 「これでも少しは成長しているはずだよ……? 僕も」 「?」  メメディの呟きに、サイトバラッドと雪做が不思議そうな顔を見せる。そんな二人の足元に突然、黄金の魔法陣が姿を現した。 「うっ!?」  がくっ、と力が抜けたようにその場へへたり込む二人。【幸福の魔術】を逆掛けにし、疲労状態へ陥らせたのだ。暫くすれば体力の回復と同じように動けるようになるだろう。 「少し黙っていようか、お坊ちゃん方。うるさいよ」 「な……!?」  メメディの言葉に、雪做が明らかに不服そうな顔を見せる。だが【幸福の魔術】に抗うことはできず、彼は苛立ち紛れに歯を噛み締めている。  彼らがどんなに切望しようが、エデンへ連れていくわけにはいかない。そこには彼らが本能的に恐れるであろう【研究者】の親玉、クリスティアドが居る。  現状研究はひと段落しており彼ら被験体が新たな酷い実験に巻き込まれることは少なくなってきていたが、彼らはクリスティアドを前にしてその悲惨な記憶に服従してしまう可能性が否めなかった。……というより十中八九、彼らは足手まといかむしろ敵になってしまうことだろう。
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